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favorite place vol6. 『金具屋ホテル』

皆様、あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。

さて今回のブログは、今年のお年賀作成ブログの際に宿泊させていただいた
長野県下高井郡山ノ内町にある『歴史の宿 金具屋ホテル』をご紹介させていただこうと思います。

斉月楼外観

このホテルをご紹介しようと思ったのは、
現在では、営業許可を得ることが非常に困難な木造4階建ての建築物であり、また、建築した宮大工達によって、随所に芸術的な試みがなされてたからです。


別棟の大広間

斉月楼は昭和11年に建築され、国の登録文化財にも指定されているそうです。

旅館を建築するにあたり、館主は宮大工達と共に、日本各地の名旅館を巡り歩き、それらの長所を取り入れたのだとか。さらに、3年間もの歳月をかけて入念に建築されたといいますから、施主、大工ともに凄まじい情熱ですね。 😮


1階の廊下(左は展示物が陳列されています)

3階の廊下(手前の引き戸を通ると、客室の玄関へ)


2階廊下(床に嵌め込まれているのは、水車で実際に使用していた歯車)

館主のお話によると、
この旅館の客室は全て独立家屋のように扱われており、廊下部分は路地と見立てて建築されているとのこと。

たとえば、下写真は階段踊り場の窓ですが、
客室から外(廊下)に出ると、富士山が望めるというストーリーをお客様に感じて欲しかったので、富士型の窓にしたのだそうです。

なんとも粋な計らいですよね。

このようなコンセプトも、現在の店舗設計でこそ一般化していますが、
80年前の建設当時は、店舗デザインなんて概念が一般的で無かった時代。

 

館主のお客様に喜んでいただきたいというおもてなしの気持ちが、宮大工の職人魂に火をつけ、斬新なモノをつくってやろうというチャレンジ精神が、このような建築を生み出したのでしょう。

同業者として感服します…。


旅館玄関(奥が帳場。フロントではなく、帳場といった雰囲気が似合います。) 

ちなみに、温泉旅館をテーマにしたアニメで、
宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』 が有名ですが、道後温泉本館以外に、この旅館も作品のモチーフになったとの説もあるそうです。

 

この旅館がある渋温泉は、昔からある温泉地だそうですが、
都市計画的な意味で、町の規格が古いため、通りが非常に狭く、駐車場が確保できない等の理由で、昭和の高度経済成長期以降、観光バスや自動車で旅行をするという時代の流れに乗れなかったようです。

外湯へとつづく町の通り

町を横断する路地

町の通りに面した公衆用の足湯

狭い石階段

町に9件ある共同の外湯 (男女、それぞれの入口扉を開けると、すぐに脱衣所、その先に浴場が続くシンプルな構成。デザイン、看板をふくめ、昭和の香りが漂います。)

 

しかし、そういった時代の流れに乗らなかったからこそ、
RC造の近代的な大型ホテルなどは建設されず、町全体に、昭和の古き良き時代が保存されているのだと思います。そして何か、観光地、観光地していない自然体の昭和を感じるこの町の雰囲気がとても魅力的でした。

 

今では逆に、この昭和レトロな風情を味わいたいと、遠方からもお客さんが来られるそうで、
時の因果といいますか、諸行無常を感じずにはいられませんでした。

 

このままの状態で、いつまでも残っていて欲しい建築と街並みです。 🙂

矢野

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