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『spicato office 』 Renovation vol.7-1

私たちが設計監理を担当させていただいた、株式会社spicato office リノベーション(大規模改修)工事について纏めましたので、よろしければご覧ください。

本工事のbefore-after→ click here
本工事 事例集    → click here

(思わず熱が入って、かなりの長文となってしまったので、ご興味のある部分だけでもお読みいただければ幸いです😅)

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・建築概要

・所在地:大阪府熊取市 ・用途:古民家 → オフィス
・階数:地上1階 ・構造:既存-木造軸組工法
・敷地面積:371.84㎡ ・建築面積:152.24㎡ ・延床面積:131.59㎡

・工事内容:古民家リノベーション(古民家大規模改修工事)
・既存建物の解体撤去工事(一部)
・瓦屋根の葺替工事(野地板共、撤去新設)
・耐震補強工事
・外壁補修および吹付工事
・土間新設工事
・テラス新設工事
・内装工事(塗装・建具・板張り・造付家具等)
・設備新設工事(給排水・給排気・衛生・空調・電気・照明)
・外構、植栽工事

 

 

大阪府泉南郡熊取町にある、築100年以上の古民家のリノベーションです。
住宅を、デザイン事務所のオフィスへと再生する試みです。

 

設計図などは残っておらず、建物を床下、屋根裏にわたり調査し、現況図面を作成。

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床下調査の様子

 

リノベーションにあたり、重視したのは以下の点です。

① 古民家の魅力を引き出す計画(設計)とし、カフェのようなオフィスを創造する。
② ①を満足した上で、耐震性能を大幅に向上させる。
③ 老朽化した外装部(屋根・外壁)の防水性能を向上させる。

 

①~③を進めるにあたって、
リノベーションの基本的な考え方は下図の通りです。

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工事前の古民家は、長年利用されている間に、天井材、化粧材で覆われ、竣工当時の面影が無くなっていました。

それらを一度、全て取り除き、老朽化した外装の防水、構造体の耐震補強を行います。

最後に、古民家の魅力ある部分を引き出す為に手を加えた上で、現代的な素材、対比的な色、形で、モダンにアレンジ。過去に現代を重ねる設計手法を採用しています。

 

 

ここからは、項目別で更に詳しく、ご説明し致します。

 

 

①古民家の魅力を引き出す計画(設計)とし、カフェのようなオフィスを創造する。

 

以下の3点を目標に、オフィスへのリノベーション設計を進めました。

A.敷地、その先の風景も室内に取り込む。
B.古民家建築の構造体をデザイン要素とし、古さを趣きへと変換。
C.執務を補完するゆとりのスペース(カフェのような場)を設える。

 

 

A.敷地、その先の風景も室内に取り込む。

下図は、本建物の工事前敷地図。
建築物を挟むかたちで、北側と南側に庭(空地)がある敷地でした。
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工事前の建築物は、南側前庭に対しては掃出窓(図中青色)で全面的に開放されていましたが、北側は赤色の部分に、物置、浴室等があり、機能的、空間的に、内部空間と裏庭の関係が希薄な状態でした。

 

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工事以前の裏庭

加えて、建築物の北側外壁面は、ほぼ全面、腰窓の半透明ガラス窓
腰窓なので、耐震要素としても期待できず、半透明ガラスなので、明り取り程度の機能しかありません。

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工事以前の北外壁面

 

 

したがって、本計画では、下図のように北面の腰窓、腰壁を撤去→南北共に掃出窓とし、敷地、その先の風景も室内に取り込む設計としました。
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こうすることで、人の意識上は室面積の約5倍の空間へと広がり、執務する人に、光、風、緑、町の風景が寄り添うよう環境が構築できます。

一日の大半を過ごすオフィスは、広がりと安らぎを感じられる場所、時の流れを感じる場所であって欲しいというのがオフィスワーカー共通の願いではないでしょうか?

 

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北窓からは、裏庭の緑、その反射光、そして季節感が…。
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南窓からは、陽光、町の風景、1日の時の流れが…。

 

この計画による、もう一つの効果は、風の流れです。
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以前は、閉ざされていた北壁を開口化することで、南北に風の流れが生まれます。裏庭の植栽に散水すれば、打ち水効果で上昇気流が生まれ、流れを更に促進させることも可能。

 

B.古民家建築の構造体をデザイン要素とし、古さを趣きへと変換。

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天井に隠れていた大胆な小屋組み構造

 

現地調査の結果、
今では珍しい工法(構造)が採用しされていることが分かりました。が、工事以前は、それらが全て天井材で覆われてる状態でした。

そこで、これらの天井材を全て撤去し、構造体を露出。力強い木構造(架構)を強調するため、既存漆喰壁に黒色塗装を施しました。
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木構造部分には、部分的に着色しましたが、大部分は敢えて工事以前のままの状態に留め置く設計としました。

柱の傷やホゾ穴、梁の色ムラ、縁台の摩耗・損傷など、以前は、『劣化』や『古さ』という否定的な印象でしかなかったものが、リノベーションで新しい視点軸を加えたことで、『趣き』や『味わい』といった、歴史の重さを感じさせてくれるものへと変換されていきました。

 

C.執務を補完するゆとりのスペース(カフェのような場)を設える。

 

この古民家は改修後、デザイン事務所のオフィスとして再利用されます。

一般の職種でもそうかも知れませんが、特にデザイン事務所の場合、柔軟な発想、アイデアが求められます。その一助となるオフィス環境とは、どのような場か、思案しました。

結果、集中と緩和(寛ぎ)が共存する場であり、ワークスタイルが画一的にならない環境であり、外部から程よい情報が入ってくる環境=【カフェのようなオフィス】という結論に。

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執務スペース:大開口の先に町の風景(情報)が広がる。
:夜間はロールブラインドを使用。

 

それをふまえ、集中的に作業を行う場(執務スペース)以外に、リラックスした雰囲気で会議できる場(ミーティングルーム)、ベンチとしても使える縁側、立ち話ができる場(パブリックスペース)、緑に囲まれた環境で資料に目を通したり、談話できる場(テラス)など、オフィスでの様々なシチュエーションを幅広く許容できる、カフェのような環境を構築しました。
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木の香りが漂うミーティングルーム
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キッチン横のパブリックスペース

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資料書架、ギャラリーと向かい合うパブリックスペース
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展示やイベントスペースしても活用できる縁側
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緑に囲まれ、風が流れるテラス

 

 

②耐震性の向上について

この建物は土壁造で、
耐震診断の結果、現在の建築物と比較すると脆弱で、耐震補強を要する建物でした。

補強設計の方法としては、壁の増設が一般的ですが、
本計画の場合、間仕切りを無くしたワンルーム、かつ外部の風景を取り込む大開口を北面に設ける必要があったので、視覚的な障害とならず、耐震性を確保できる部分がどこかを探しあてるのに時間を費やしました。
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また、どうしても部屋の中央で耐震壁を確保しなければならない部分には、鋼製のブレース(上図参照)を設置する設計とし、透過性と耐震性を両立させています。
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部屋の中央部に設置した鋼製ブレース
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外壁部の腐朽した柱の補強
写真 2018-01-09 15 04 12
柱のホゾ穴補強
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柱頭部に構造用金物を追加設置

 

壁を補強しても、
地震力を地中へと伝達するためには堅固な基礎が必要ですが、以前は玉石基礎で、現在では一般的な布基礎、ベタ基礎ではありませんでした。
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床下:玉石基礎で、地面が露出

 

そこで、本工事では基礎兼用の土間コンクリートを打設し、耐力壁端部にアンカーを設置する設計としました。土間コンクリートの上には、敢えて仕上げを施さず、意匠としました。
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床前面に土間コンクリートを打設(配筋の下は断熱材)
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耐震壁端部にアンカーを設置

 

これらの対策を施した結果、南北の大開口(窓)を確保しても、以前に比べ、4.3倍の耐震性能を獲得するに至りました。

 

 

③外装部(屋根・外壁)の防水性能向上について

まず初めに屋根ですが、昔ながらの瓦葺きで、
長年使用してきた瓦の損傷が激しく、工務店、施主様と相談し、下地の野地板を含めて葺き替え工事を実施。
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工事前の屋根瓦葺き
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野地板の張替え工事の様子


次に外壁ですが、前述のとおり、以前の外壁は土壁造で、上部は漆喰仕上げ、下部は杉板張りでしたが、長年の風雨に晒され経年劣化が進行。土壁が痩せ、柱との間に隙間が生じている部分も見受けられ、対策を求められる状態でした。

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外壁部の経年劣化
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柱と土壁の間に発生した隙間

 

外装の対策としては、大きく分けて3つありました。
A:これらの仕上材を全てを撤去し、同じ仕上げで復旧する方法
B:これらを下地にして新しい外装材を上張りする方法
C:劣化が著しい部分のみ補修し、全体に弾性系吹付塗料を施す方法

 

Aはコスト高、Bは以前の土壁デザインを隠してしまう。

 

それに対しCは、3つの中で最もローコストでありながら、柱型、梁型、板張り等の凹凸を意匠として継承することができ、かつ弾性塗料なので、地震などで建物が揺れても、塗膜が破断しにくく、防水性の維持が可能。また意匠的にも、以前の古典的な外観からモダンな印象の外観へと変化させる効果もあります。
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塗装後の外壁:既存の壁の凹凸が影を落ちる。

 

 

 

アレもコレもと書きすぎてしまい、本当に長文になってしまいましたが、以上で本工事のまとめは終了です。最後まで読んでくださり、有難うございました。😅

 

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