建築ブック 05『木造軸組構法その1』
私達が設計活動を通じて培ってきた建築の知恵や知識の中で、皆様のお役に立ちそうな情報をご紹介させていただく『建築ブック』の第5回。
今回のテーマは『木造軸組構法』について。
日本の新築住宅で最も広く普及している工法ですが、鉄骨造やRC造と比較した場合、本構法の最大の特徴として挙げられるのが短工期と低コストではないでしょうか。
ただ、早かろう安かろうが、決して悪かろうではなく、合理的な理由に基づいている点について、鉄骨造やRC造の設計監理経験も踏まえた視点からお話ししたいと思います。
まず挙げられるのが木材の優れた加工性。
鉄などの素材と比較して柔らかい木材は切断や切削などの加工が容易で、特に近年では工場でのプレカット技術の発展により、複雑な仕口や継手の加工が機械によって正確かつ効率的に行われるようになったことで、現場での作業が大幅に省力化され、結果として工期短縮とコスト削減につながっています。
木材プレカット工場
もう一つは木材と本工法の軽量性。
ご存じのように、木材は素材自体が鉄骨やコンクリートなどと比べて圧倒的に軽量です。
さらに、近年の木造軸組構法では、柱や梁で構成されたフレームにサンドイッチ状に板材を張る工法が主なので、RC造などと比べて壁内の空隙率が高く、建物全体の重量を効果的に抑えることができます。
結果、図のように木造は、杭基礎を必要としないケースが多く、鉄骨造やRC造のように頑丈な基礎梁も不要で基礎工事がコンパクトになります。建物が完成すると目に見えない基礎ですが、建物全体の工程とコストに占める割合は大きく、この部分がコンパクトになることの効果は大きいです。
(※敷地が軟弱地盤の場合は、木造でも地盤改良が必要。)
加えて、木材は基本的に人力で運搬できるので、建方作業以外ではクレーンなど、大型重機の使用が少なくて済む。
これも工期短縮や建設コストの削減に大きく貢献しています。
最後に、鉄骨造やRC造と木造(住宅)における職人の分業体制の違い。
例えばRC造の場合、躯体工事でも鉄筋工、型枠工、コンクリート工、溶接工などのように専門職種ごとに細かく分業化されています。
こうした分業体制では、各職人(業者)の工程に対してスケジュール調整が必要となるため、おのずと工期が長くなります。
また、工程には順序があるため、天候などの影響でひとつの工程が遅れると、後続の工程にも影響が波及し、工期や建設コストに影響を及ぼすことが多くなります。
鉄筋コンクリート造(RC造)の工事現場
一方、木造(住宅)の現場。
棟上げ(建方)を除いては、現場全体を把握・統括できる棟梁格の大工さんを中心に、基本的に数名の大工さんが基礎以降の躯体、造作を含めた主要な工事を一手に担うことが多く、他の職種(設備・内装など)は必要なときに短期間だけ加わる体制です。
木造の棟上げ(建方)の工事現場
木造(住宅)の工事現場
少人数のグループが連携し、多くの工程を連続して進めるので、職人同士の引き継ぎや調整が少なくなり、結果として工期短縮と建築コストの削減につながっています。
これは伝統的に大工さんを中心に木造の住まいを建築してきた、日本独自の匠の文化によるところも大きく、また構造材から下地材、造作材まで対応できる木材の汎用性の高さも関係していると思います。
今回は、木造軸組工法が短工期、低コストで建築できる理由についてお話ししてきました。
何かの参考になれば幸いです。😀