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建築ブック『不動産事業と構造区画モジュール』

私達が設計活動を通じて培ってきた建築の知恵や知識の中で、皆様のお役に立ちそうな情報をご紹介させていただく『建築ブック』の第7回。

 

これまで戸建住宅にまつわるテーマを中心に取り上げてきましたが、今回は少し路線を変えて、不動産事業の視点から、建築物の構造区画モジュールについてお話したいと思います。

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構造区画という言葉はあまり聞き馴染みがないと思いますが、これは上写真のように、柱や梁、耐力壁などで囲まれた区画のこと。

 

上写真は鉄筋コンクリート造(RC造)のワンルームマンションの構造区画で、平面図で示すと下図(一般的には、2~3住戸程度で1構造区画)のようになります。

 

 

1テナントビル、賃貸マンションなど、不動産事業系建築物の新築設計を担当させて頂く際には、この構造区画の基準サイズ(モジュール)についてかなり入念に検討します。

 

 

なぜか?

 

 

お気付きのように、基本的に、一度決めたらこの建物の生涯に渡って変更が利かないからです。

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この構造区画は空間の基準であると共に、建物の骨格(スケルトン)そのもの。

 

 

一部分であれば、補強しながら、耐力壁に開口をつくることも可能ですが、
大地震が多発するこの国で、建物全体の基準となる構造体の区画壁を全般的に削ったり付加したりすることは、現実的ではありません。

 

仮に構造的に成立したとしても、それに要する膨大な改修費用とそれ以後の収益バランスが絶対に釣合いません。

 

 

したがって、実は、この構造区画のモジュール(基準サイズ)、竣工後に目に見える内外装や設備と同等、もしくはそれ以上に重要です。

 

 

しかし、私達が実務の現場で既存マンションのリノベーション(大規模改修)設計を担当させて頂く際、このモジュールに余裕が無い建物(特に昭和後期に建設された建物)に出会うことが非常に多いです。
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既存マンションをスケルトン(構造体)→共用部および全住戸をリノベーション

 

 

 

このような場合でも内外装や住宅設備については、現代の新築マンションに遜色のない水準までスペックアップすることが可能です。

 

ただし、下図のように、例えばトイレとバスルームをセパレートにしたい、あるいは収納を追加したいといった「現在では標準となっている設備スペースを生み出す改修」を行う場合には、その分だけ居室の面積を削らざるを得ず、既存の居室にある程度の余裕がなければ、こうした改修には対応できません。
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私達は以上のような経験から、このような建築物の新築時には、将来の改修や市場変化に柔軟に対応できるよう、その時代の周辺物件の平均的な居室面積を調査した上で、その水準よりも一回り大きなサイズの居室面積(=構造区画モジュール)を確保することを提案しています。

 

 

要するに【大は小を兼ねる】という提案です。

 

 

移りゆきの激しい現代、建築物(RC造)の構造寿命である100年を超えるタイムスパンを現時点で見通すことは困難であり、不確定な市場ニーズに柔軟に対応していくためには、後で変更の利かない器(構造区画)のモジュールを少しでも大きめに作っておく方が懸命だという考え方です。

 

 

勿論、一回り大きくした場合、初期コストはその分上昇しますが、図のように居室部分は設備スペースより相対的な坪単価は低いので、上昇率は比較的緩やかです。

また将来を見越して構造モジュールを大きくした結果、周辺物件よりも相対的に居室面積が広くなるので、その分を賃料に反映できます。

もし仮に出来なかったとしても、同エリアで同じ設備スペックであれば、大抵の入居者は居室面積が少しでも広い方を選定する傾向が高く、必然的に入居率は上がり、結果として経営安定につながります。

 

 

 

人口減少が続く時代においては、駅近といった非常に恵まれた立地条件や、抜群に良好な居住環境を備えているといった特殊なケースを除けば、大半の賃貸マンションなどの建築物は、新築当初こそ満室であっても、経年による設備や内外装の老朽化には抗えず、必ず物件としての競争力が低下していきます。

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その時点でのリノベーションまでも視野に入れて構造区画サイズをあらかじめ検討しておけば、将来の見通しが不確かな時代にあっても、長期的に安定した不動産経営につながるのではないでしょうか。?

 

 

 

今回は、構造区画のモジュールが不動産経営に与える影響についてお話ししてきました。

 

 

何かの参考になれば幸いです。

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構造区画モジュールを大きく確保し、長期安定経営に備えたワンルームマンション

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