『大屋根の家』について
『大屋根の家』の設計内容について、纏めましたので、よろしければご覧ください。
敷地は、大分県中津市。
東京や大阪の住環境と違い、周囲を田園や山林に囲まれた自然豊かな場所。
ただ、前面に交通量の多い道路が通っており、防音やプライバシー対策が求められる場所でもありました。
この地に住宅を新築するにあたり、施主様が要望されたのは、
①季節を感じる庭に囲まれた、明るく開放的な住宅。
②道路からのプライバシーを確保して欲しい
③木の温もりを感じる家。
④できるかぎり、自然素材を使って欲しい。
⑤趣味で蒐集した骨董の建材を使って欲しい。
それに対し、次のような住宅をご提案させていただきました。
コンセプト
①どこからも庭の緑を眺めることができる、庭と共に暮らす家。
②閉鎖的な個室の組合せではなく、大空間の中、必要に応じて個室化できる家。
③大屋根の木構造を意匠とし、木の温もり、自然素材の趣きが感じられる家。
④風通しが良く、陽光が降り注ぐ、省エネ住宅。
図を用いて、設計内容を詳しくご説明致します。
この住宅では、プライバシーを確保するために、敷地外周部を高さ2.1mの塀を築造しています。(庭への採光に配慮して、1.8m以上は半透明ガラス採用)
その内側へ、庭、縁側、1階リビング、2階個室(LOFT)を入れ子状に配置。
更にその上に、建築基準法上の ロフト(loft)※を設置し、屋根に沿って、庭へとつながる2階3層の 空間を構成。(下のコンセプト模型をご覧ください)
こうすることで、各空間が庭に向かって重層し、どこにいても庭が望める空間構成となっています。
※建築基準法上のロフト:天井高さ1.4m以下の空間で、階数・床面積の算入免除。
コンセプト模型
室内と庭の境界は、全て大型のガラス戸で、全て引き込み可能。
開け放てば、周辺の林・ 庭、室内の景色が一体に。
リビングからは、このような風景。庭には常緑樹以外に紅葉やヤマボウシ、サルスベリなど、季節を感じる落葉樹もバランス良く植樹しています。
庭を眺めるだけでなく、庭の中で暮らしたいとのご要望にお応えし、縁には、テーブルにもベンチにもなる台を設置。家の中に居ながら庭に居る気分で、書き物、ティータイムなど、心地よい時間を過ごせます。
地震力を屋根に負担させる特殊構造を採用し、下屋の小屋組を排除したことで(詳細:後述)2階個室から小屋裏空間を通して庭への眺望を実現。
次に、この空間構成を採用するに至った経緯についてご説明致します。
当初、施主様のご要望では、1階に配置したい部屋が多くあり、総二階建て住宅ではなく下屋付2階建住宅になりそうな面積比率でした。(下図を参照ください)
もし下屋付2階建て住宅とした場合、屋根が障害となり、2階からの庭の眺望が不可能に。さらに、室内空間も部屋毎で仕切られ、凡庸なものとなってしまいます。
そこで、下屋(1階)の屋根を持ち上げ、1枚の大屋根が庭に向かって片流れとなる形状へと発想を転換。(下図、右側を参照ください)
さらに、屋根が地震力を負担する特殊構造を採用することで、眺望障害となる小屋組(小屋梁・束・母屋)も排除。庭からロフトまでが一つながりの大空間を実現しました。(上図、下写真を参照ください)
2階から上がスッポリと大屋根に包まれた大空間。小屋組を排除したことで、2階、更にその先からも庭への眺望が楽しめ、逆に室内も広がりを感じるられる空間に。葉っぱ形状に広がる屋根材には特殊構造を採用。地震耐力を負担させている。
2階個室。1階から繋がる屋根(構造体)が、最頂部まで連続する。
このような大空間ですが、省エネ設計にも配慮しています。
まず第1に、この大屋根の形状が重力換気※が促進。自然換気による通気性も向上(上図を参照ください)しています。
また下図のように、広い屋根には通気工法を採用。夏場の厳しい日差しをシルバーのガルバリウム鋼板とアルミ遮熱シートが反射し、グラスウールより断熱性の高いポリスチレンフォームが、冬場の保温性も高めています。
更に、吹抜け部にはサーキュレーターを組み込み、冬場、天井付近に滞留する暖気を撹拌し、室温を平準化する設計にも配慮。(下写真を参照ください)
※重力換気:温められた空気は上昇するという原理を用いた自然換気方法の一種。
吹抜け部の棚に組み込んだサーキュレーター。上写真はそのガラリ。
加えて、屋根中段には天窓を設え、室内に陽光が降り注ぐよう配慮。曇天時でも日中の照明は不要なくらいの照度を確保しました。
曇天時。天窓の陽光が2階個室の開閉式建具(白)に反射し、拡散される設計。
他の省エネ対策ですが、湿気の多い日本古来の方法に習い、
建物全体に耐震壁以外の壁は極力設けない設計とし、引戸の開閉で、住まい手の心地良い通風状態に調整できるよう配慮しました。
現代はテクノロジー全盛の時代。強引な設計でも、機械化すれば、なんとかなると思います。
ただ住宅を設計、建築する場合には、その地の風土に習い、昔ながらに使えるものは極力、自然の力を利用し、それで足りない部分を機械で補い、技術でカバーする方が、建物にとっても住まわれる方にとっても良いと思われませんか?
なにより、エコロジーは、エコノミーですし。。
以上で、大屋根の家の作品説明は終了致します。
長文、最後までお読みいただきありがとうございました。
施主様ご家族と、工務店、大工さんと共に記念撮影
よろしければ、本住宅の作品欄もご覧くださいませ。