建築ブック 04『変形地』
私達が設計活動を通じて培ってきた建築の知恵や知識の中で、皆様のお役に立ちそうな情報をご紹介させていただく『建築ブック』の第4回。
今回のテーマは、建物とは切っても切れない関係にある『土地』について。
なかでも上図のような不整形地など、いわゆる『変形地』について、その特徴、計画のポイントなど、実例も交えながらお話します。
変形地、例えば狭小地、短冊地、旗竿地、三角地、傾斜地などを、初めから住宅用地として検討される方は珍しいかもしれません。
多くの方が最初に思い浮かべるのは、一般的な住宅用地。下写真のように、30〜50坪程度の四角形で区画された平坦な土地だと思います。
このような土地は住宅を建築しやすいように区画されており、様々な住宅タイプに対応した計画や工事が容易。さらに敷地を効率的に活用できるので、将来的な売却時にも有利で、住宅用地として第一候補になるのも当然と言えます。
ただ、こうした住宅用地は需要が高く、人気エリアでは空き地が残っていないことがほとんど。仮に残っていたとしても、価格が高めに設定されています。
一方で、変形地については「希望通りの家を建てるのが難しい」と感じる方が多く、購入者が少ないという話をよく耳にします。
確かに、変形地は一般的な住宅用地に比べて敷地上の制約が多く、どのような住宅タイプでも建築できるわけではありません。
しかし、変形地の特徴を理解し、それに応じた住宅での生活スタイルでも良いと思える方にとっては、有力な選択肢となるかもしれません。
はじめに、各変形地の特徴についてお話したいと思います。
A. 狭小地
特徴
宅地面積が普通の住宅用地と比べて小さく、隣地との距離が非常に近い土地。
都市部で多く見られ、写真のようにコインパーキングなどで活用されていることも多く、隣地建物が密集している環境にあることが一般的です。
計画のポイント
狭小地では、限られたスペースを有効活用するために、縦方向に空間を広げる工夫が必要です。例えば、天井を高くして開放感を出したり、スキップフロアを取り入れて空間に変化を持たせるといった方法が効果的。ただし、設計やデザインの工夫によって、広がりのある空間を演出することはできますが、1層ごとの面積は狭いので、生活スタイルにはある程度の妥協が必要です。加えて、延床面積を確保するために、3階以上となることが多いです。
B.短冊地
特徴
幅が狭く細長い形状の土地。この形状は、前面道路に面する部分が狭く、奥行きが深いのが特徴です。細長い形状からウナギの寝床とも呼ばれています。
計画のポイント
短冊地の場合、奥行き方向に長い間取りを設計するのが基本です。室内では、視線をうまく誘導する工夫をして、空間が狭く感じないように配慮します。また、京町屋のように中庭や吹き抜けを取り入れて、風通しや採光を確保する方法も効果的。ただし、この敷地は奥行きが長いため、必然的に普通の住宅と比べて生活動線が長くなる傾向があるので、その点は妥協が必要です。
C.旗竿地
特徴
細い通路状の部分(竿)が前面道路に面しており、その奥に敷地(旗)が広がっている形状の土地。竿につけた旗のような形状をしていることから、旗竿地と呼ばれています。道路からのプライバシーが確保しやすい反面、通路部分(竿)が狭くなりがちで、幅が狭すぎると駐車スペースの確保が難しくなるため、注意が必要です。また、敷地の特性上、周囲が建物に囲まれることや、手前の住宅の影になり奥まった印象になる点については、ある程度の妥協が求められます。
計画のポイント
旗竿地では、細い通路(竿)を玄関や駐車スペースとして活用し、奥の敷地(旗)を居住スペースにあてることで、道路からのプライバシーを確保した設計が可能。また、敷地が隣地建物に囲まれるため、外壁側の開口を減らす代わりに中庭を確保し、中庭側から通風・採光を行う方法等を採用すると効果的です。ただし、敷地の特性上、ご自宅が手前の住宅の影に隠れて奥まった印象になるのは妥協しなければならないのと、通路部分(竿)の幅員が狭すぎると駐車スペースと通路が確保されないので注意が必要です。
D.三角地
特徴
文字通り三角形の形状をした土地です。面積にもよりますが、通常の四角形の建物を設計するのが困難です。
計画のポイント
三角地は敷地辺が平行でないため、四角形の建物を配置するとデッドスペースが発生しやすいです。計画上、三角形のコーナー部分の活用方法がポイントとなります。後半の実例にてご説明します。
E.傾斜地
特徴
地面に高低差があり、平坦ではない土地です。丘陵地帯に多いことから、眺望が良い場合が多い反面、地盤の安定性や雨水対策が必要です。
計画のポイント
傾斜地では、地形を活かした段差のある設計や、スキップフロアを取り入れた計画が効果的です。地形に合わせた建物配置を工夫することで、切土や盛土を減らしてコストを抑えつつ、眺望を楽しむための大きな窓やバルコニーを設けることで、豊かな生活環境を実現できます。敷地の特性上、階段が多くなるのは避けられませんが、その分、立体的で魅力的な空間を楽しむことができます。
ここまで、変形地の特徴について概略をお話ししてきましたが、次に、具体的な建築事例を交えながら、もう少し詳しくご説明いたします。
下写真は、当事務所が設計監理を担当した、大阪府豊中市にある敷地面積12坪(実質有効敷地10坪)の狭小三角地に建つ『オフィス兼単身者向け住宅』です。
写真中央:狭小三角地に建つ オフィス 兼 単身者向け住宅
外観
三角地でありながら狭小という厳しい敷地条件の中、限られた敷地面積を最大限に活用するため、通常の四角い建物ではなく、敷地の形状に合わせた三角形の平面形状を採用しました。
このような場合、鋭角になったコーナー部分はデッドスペースになり易いのですが、この実例では、この部分に敷地に沿ったL型階段、バルコニー兼用の庇を設けることで、狭小敷地を効率的に活用しています。
断面構成は、1階がオフィス、2階が住居。
狭小地での計画ポイントでも触れましたが、人は空間を容積として感じるため、平面的に狭い建物の場合は、天井高さ方向で補完すると効果的。
この実例では、屋根を片流れの登り梁構造にし、水回り以外の居住スペースはロフトを含めたワンルーム空間とすることで、高さ方向の広がりを確保しています。
住居内観
住宅内部はモノトーンでまとめ、壁や天井、建具をすべてマットな白で塗装することで、境界を曖昧にし、空間に広がりを持たせる意匠を採用しました。
ここまで長々とご紹介してきましたが、このブログでは決して変形地の購入を積極的に推奨しているわけではありません。
実際、これらの土地にはデメリットも存在しますので、第一候補は、普通の住宅用地が良いと思います。
ただし、先入観でこれらの土地をすべて除外するのは勿体ないですし、冷静に検討したうえで、住宅用地として購入する分には、選択肢の一つと成り得るのでは?と思い、今回のブログで取りあげてみました。
もし、変形地の購入についてお悩みの場合には、建築計画の視点からアドバイスも可能ですので、お気軽に左欄✉CONTACTフォームよりお問い合わせください。